2021年8月
多様な観點から意見をぶつけあうことで持続的な企業価値向上を追求

(左)社外取締役 御立 尚資
日本航空株式會社やボストンコンサルティンググループで勤務し、現在はボストンコンサルティンググループシニア?アドバイザー。楽天グループ株式會社、DMG森精機株式會社の社外取締役を兼職。2017年6月、當社取締役に就任。
(右)社外監査役 大槻 奈那
スタンダード&プアーズ?レーティング?ジャパン株式會社、メリルリンチ日本証券株式會社等、様々な金融機関でアナリスト業務に従事?,F在はマネックス証券株式會社の専門役員チーフ?アナリスト。株式會社クレディセゾン社外取締役、名古屋商科大學大學院マネジメント研究科教授等を兼職。2018年6月より當社監査役に就任。
取締役會の実効性
取締役會と、取締役會「外」での活発な議論がリンク
- Q當社の取締役會の実効性をどのように評価されていますか。
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- 御立
- 當社のコーポレートガバナンスの大きな特徴のひとつは、取締役會で活発な議論が行われているだけでなく、その「外」での議論もうまくリンクしていることにあると思います。例えば年數回開催される「戦略論議」の場では、今後のグローバル戦略やデジタル戦略の方向性など、當社の中長期的な企業価値に大きく関わるような経営課題について、社外役員も含めて議論します。當社の経営課題などに関する認識や理解を深め、取締役會における議論や意思決定の“質”を高める上で、極めて重要な役割を果たしています。
- 大槻
- 他社においても、例えば中期経営計畫などの大きな事業戦略を策定する際に別途こうした會議を設けることはありますが、當社の場合は、様々なテーマで、頻繁に、社外役員も含めて実施しているという點が非常にユニークだと思います。
- 御立
- また、テーマに応じて個別の事業部門の擔當者など、取締役會のメンバー以外の社員の方々から直に説明を受けたり、意見交換をしたりするケースも多いですね。
- 大槻
- おっしゃる通り、普段取締役會に出席している経営層だけでなく、ミドル層も含めた様々なメンバーでディスカッションする機會を積極的に設けているのも當社の大きな特徴です。私たち社外の取締役?監査役にとって、各事業の最前線にいる社員から話を聞けるのは大変役に立ちますし、社員の方々にとっても、社外の人間と意見交換することで普段と別の視點からビジネスを考える機會になるはずです。このように、様々な人間が役職や立場の違いを越えて意見を出し合うことによって、物事を多面的に捉えられるようになり、非常に立體的かつ広がりのある議論ができており、ひいてはそれが取締役會の実効性向上に繋がっていると思います。
- Q株式市場には、「社外役員はモニタリングに徹するべきで、社內役員と共に熱くなっては困る」といった意見もあります。お二人は社外役員の役割についてどのようにお考えでしょうか。
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- 御立
- 當社は監査役設置會社をベースにしつつ、任意の指名委員會、報酬委員會を設置し、社外役員が中心になって議論を進めるなど、規律あるガバナンス體制を構築してきました。ただし、こうした體制構築はあくまでもミニマムの合格點であり、企業価値の毀損を防ぎ、逆に価値を高めていくためには、それらをどう運用するかの方が重要になります。
- 大槻
- そのためには、先ほども申し上げたように、社內外の取締役、監査役が互いの立場や役職の違いを超えてフラットな形で議論することが大切です。特に私たち社外役員は、株主の付託を得ているという重みを感じながら発言、行動する必要があると思います。それだけに、“形式的”に役割を果たすだけではダメです。會議が形式化すると「ガバナンスの観點からとりあえず意見を申し上げておきます」といった発言になってしまいがちですから。
- 御立
- 例えば、あるプロジェクトを実行するにあたって、それをやらなければならない理由は何か、そして、実現するにはどのようなリスクがあり、どうコントロールすべきで、將來そのプロジェクトをどのように発展させていくべきなのか、といった建設的な議論は、形式化した會議の中ではできません。その點、當社の會議は形式化することなく実効性の高い運営ができていると思います。
- 大槻
- 「事業を詳しく分かっていない社外の人間が取締役や監査役を務める意味があるのか?」といった疑問の聲が世の中には一部あるのも事実です。しかし、少なくとも當社の社外役員を見る限り、論點が明確な會議資料や過不足のない事前説明はもとより、現場視察や社員との交流等を通じて、事業に関しても一定以上知識を備えています。その上で、保険とは別の専門領域を持つからこそ、社內だけでは気づけないような切り口で事業の課題などを指摘できるケースが多いと思います。
- 御立
- 同じ社外役員でもバックグラウンドは様々ですから、多様な意見が出ますし、意見が対立することも少なくないですよね。
- 大槻
- 先日も、ある戦略について社外役員間で意見が分かれ、白熱した議論が繰り広げられたことがありました。これは當社のガバナンスにとって非常に良いことだと思います。社外の人間同士であそこまで本気で議論を戦わせることができるのは、個々のキャラクターの問題だけでなく、何でも自由に話せるカルチャーが當社に根付いているからではないかと感じています。
- 御立
- 私も當社の社外役員を4年務めていますが、このように社外役員が“実質的”な役割をしっかりと発揮しているということは當社の強みであり、またこれは運営の中で磨かれてきたものでありますから、一日の長があると考えています。
事業ポートフォリオ戦略
M&Aに対するモニタリングを強化
- Q近年のポートフォリオの入れ替えに関してどのように評価されていますか。
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- 御立
- このところ、事業の売卻判斷を複數実施しており、これは當社のポートフォリオ戦略がしっかりと機能している証であると考えています。當社では、特色のある事業を有し、優れた経営者のいる企業を買収することで事業ポートフォリオの最適化を図ってきました。しかし、市場環境が激しく変化する中では、新たな企業を迎え入れる一方で、戦略の趣旨に沿わなくなった事業は分離?売卻しなければ、最適なポートフォリオを維持できません。特に日本企業の場合、海外子會社売卻というと、業績が悪化してどうしようもなくなってから売卻する事例が非常に多いですね。
- 大槻
- その點、當社ではグループ戦略の趣旨に沿わなくなった、あるいはフォワードルッキングに見て利益成長が期待できないような事業については、早い段階から売卻等の検討に著手しています。それは、株主からお預かりした資本を投入している以上、その期待に応えなければならないという強い意識が當社のボードメンバーに浸透しているからだと思います。
- 御立
- 勿論當社は投資會社ではありませんので、どんどん事業ポートフォリオを入れ替えていけばいいわけではなく、そこは一定程度慎重でなければなりません。その中でも、當社の海外展開の足掛かりとなったTMRの売卻など最近の事例を見ても、非常に適切なタイミングでの売卻が実現しており、當社の企業価値にとってもポジティブな判斷だったと評価しています。
- 大槻
- また、大型の買収案件だけでなく、既存のビジネスモデルを補完するボルトオン型のM&Aをこれまでに60件以上成功させてきた実績もあります。新しい中期経営計畫では、今後、ホールディングスのプロアクティブなガバナンスのもとで、このボルトオン型も含めたM&Aの品質を更に向上させていく方針です。こうした施策の進捗狀況もしっかりモニタリングしていきたいですね。
- 御立
- もうひとつ、當社のM&A戦略で特徴的なのはリスクテイクに対するポジティブな姿勢です。様々なリスクを引き受ける保険事業を本業としているからなのか、単に「リスクの取り過ぎがいけない」というだけでなく、逆に「リスクを十分に取らないのもいけない」という発想が、當社の経営の中にビルトインされている気がします。
- 大槻
- 確かに「リスク対比のリターン」が強く意識されていますね。一般的にはリスクをネガティブに捉え、いかにそれを抑えるかという議論に終始しがちですが、當社の場合「もっとリスクを取れるのではないか」といった議論になることも少なくありません。
- Q今後の課題は何でしょうか?
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- 御立
- これまでに構築してきたグローバルな事業ポートフォリオを基盤に、いかにして新しいフロンティア領域を取り込んでいくか、それが次の世代のボードメンバーの大きな課題となるのではないでしょうか。
- 大槻
- 一般的な日本の大企業においては、リスクを取るチャレンジに対してNGが出ることも多いのですが、當社には「リスク対比のリターンを意識する」「挑戦を恐れない」「失敗から學ぶ」という意識があります。フロンティア領域にチャレンジする場合、こうしたカルチャーがあることが大きな強みになります。
- 御立
- おっしゃる通りです。當社の業務においても例えばDXの推進など、実際に著手してみなければ分からないこと、その先が見えてこないことがたくさんあるはずです。また、當社の海外展開においては、40年前には失敗も経験したわけですが、その経験をしっかりと分析し、活かしながら、また挑戦するというカルチャーがあることで、今日の成功があるのだと思います。今後も、失敗を恐れて二の足を踏んだり、試行錯誤を避けてはいけないと思います。
- 大槻
- もうひとつ課題を挙げるなら、今後も引き続き良い意味での危機感を持つことが必要ではないか、ということです。當社は現在世界トップクラスの保険會社ですが、これからも更に成長していくために、健全な危機感を持ち続けることは大切だと思います。先日、ミドル層の社員の方とお話したのですが、「他社が競爭力を高めている」「10年後も同じ仕事のやり方で良いとは到底思えない」といった問題意識を持ち、その解決に取り組んでいました。こうした健全な危機感を経営層から若手社員まで皆が持っていることはとても大切であり、今後も「今日の正解が明日も正解とは限らない」という感覚を持って、成長を続けて欲しいと思います。
- 御立
- その點に関しては、大槻さんを含め多くの役員が指摘してきましたし、今のところはしっかりと危機感が共有できていると思いますが、今後も、社外取締役としてもその辺りをモニタリングしていきたいと考えています。
中長期的な企業価値向上に向けて
非財務情報を企業価値に結びつける
- Q最後に、中長期的な企業価値向上に向けたご意見やアドバイスをお願いします。
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- 大槻
- これまで企業価値を左右する要素としては、売上や利益といった財務情報が大きなウェイトを占めていましたが、最近では、ESG投資が世界に拡大したように、非財務情報の重要性が急速に高まってきました。
- 御立
- 大槻さんのご指摘された非財務情報、私の専門であるコンサルティングの世界では非競爭要因と呼んでいるのですが、これは確かに非常に重みを増していますね。従來なら、例えばオペレーションの効率やマーケティングの優劣といった競爭要因がダイレクトに企業価値の差となることが多かったのですが、現在ではそれに加えて気候変動問題や人権問題などへの対応の巧拙であったり、地政學的リスクを捉えてポートフォリオを組み替える力など、単純なミクロ経済的競爭の枠組みから外れた取り組みによっても企業価値が大きく左右される時代になりました。
- 大槻
- 社內の方々は業績という數字を負っており、どうしてもそちらに意識が向かいがちです。それだけに、私たち社外役員の目線から非財務情報?非競爭要因への取り組みについて意見したり、提言したりしていくことが、これまで以上に重要になるはずです。
- 御立
- そうですね。これら非競爭要因についても、どうすれば株主にとってプラスになるのか、多様な観點から意見をぶつけあうことが、當社の持続的な企業価値向上に繋がっていくと思います。
- 大槻
- 當社では新しい中期経営計畫において、新たに「未來世代」をステークホルダーに加えることを打ち出しました。そこでは、將來を考えながら、責任ある行動をしていくことが一層強く求められていると思います。これからも、私たち社外役員も一緒に考えながら、しっかりとモニタリングしていきたいと思います。
本日はお忙しい中、ありがとうございました。